【資料編】言語化のメカニズムまとめ ――レキシコン、記憶、言語野

言語化スキル

 

このページでは、プレゼンの進行において重要な役割を果たす「言語化の仕組み」についてまとめていきます。

 

特に、次の3つの観点&トピックから整理していきます。

 

①レキシコン…言語学または認知科学的な観点

②記憶…………心理学的な観点

③言語野………神経学的な観点

 

 

これらの観点から、言語化プロセスのメカニズムを検討することで、

 

プレゼンを効率的に上達するうえで役立つ実践的な手掛かりを得ることができると考えられるので、ぜひお読み頂ければ幸いです。

 

※この記事は、一部追記中です。ご了承ください。

 

レキシコン  ――認知科学的な観点から

 

言語学・認知科学などの分野で用いられるレキシコン(lexicon)という概念があります。

 

レキシコンは、平たく言えば「語彙のリスト」を意味し、私たちが使用する母語についての言語的な知識の総体を含むものと考えられています。

 

例えば、

 

・特定の語彙Aは、どんな意味と対応するか?

・その語彙は文章中でどんな機能や役割を果たすか?

・どんな文法ルールに従って他の語と結びつき、文章を構成するか?

 

こうした言語的な知識と一緒になった様々な語彙の集まりのことを指します。

 

私たちは普段の会話のなかで、自分のレキシコン(語彙のリスト)から様々な言葉を引き出し、さらに組み合わせることで、言語化のプロセスを進めていきます。

 

プレゼンにおける言語化のプロセスにおいても、やはりこのレキシコン(語彙のリスト)が大事な役割を果たします。

 

これは裏返すと、もしプレゼンターが自身の考えやメッセージを聞き手に対して伝えようとしたとき、

 

この話し手のレキシコン(語彙のリスト)のなかにそれを表現するための適切な語彙が含まれていない場合、言語化のプロセスをスムーズに進められないことを意味します。

 

そのため、このレキシコン(語彙のリスト)のイメージは、言語化スキルの向上させ、プレゼンテーションの上達を目指すうえで何よりも大事な部分だと考えられます。

 

 

記憶 ――心理学的な観点から

 

次に、記憶という心理学的な観点から、言語化について考えてみます。

 

◆1.記憶の分類

最もよく用いられる記憶の分類方法として、長期記憶と短期記憶があります。

 

長期記憶は、陳述記憶と非陳述記憶に分類されます。

短期記憶は、ワーキングメモリとも呼ばれます。

 

こうした分類のなかから、プレゼンとの関連性が顕著なものを幾つかピックアップしてみましょう。

 

 

◆長期記憶-陳述記憶

①意味記憶

ヒトの大脳の側頭葉には、言葉の意味や語彙の記憶が格納されていると考えられており、意味記憶と呼ばれています。

 

プレゼンで扱うテーマに関する一般的な知識や専門的な知識は、この意味記憶にほかならず、言語化のプロセスに不可欠です。

 

②自伝的記憶、エピソード記憶

個人の生涯にわたる出来事や経験の記憶のことを、自伝的記憶と言います。自己のアイデンティティや生涯の文脈に結びついています。

自伝的記憶は、エピソード記憶を含みますが、両者は少し異なる概念です。

エピソード記憶は、個人的な経験や出来事の記憶のことです。具体的な場所、時間、感情などの文脈情報が含まれます。

スピーチ中に自身の経験談や具体的なエピソードを話すときには、こうした自伝的記憶やエピソード記憶が重要です。

 

◆長期記憶-非陳述記憶

③手続き記憶

手続き記憶とは、箸の使い方やタイピングのように、意識せずとも自然に手順や方法を再現が可能になるような、技能や習慣に関する記憶です。

プレゼンのなかでは、例えば、視線の使い方/声の抑揚や緩急/ジェスチャーなどは手続き記憶に属します。

 

短期記憶
④ワーキングメモリ(作業記憶)

ワーキングメモリは、目の前の作業に取り組み課題を達成したり、直面している問題について思考し答えを出すために、短期間のあいだ情報を保持し操作するためのシステムです。

プレゼンでは、話し手は、常に自身が喋った内容を自分で聞き取り把握しながら、新たに文章を構成し続けることをしますが、

この言語化のプロセスを進めるうえで、ワーキングメモリは不可欠です。

スライドの内容を把握しながら話したり、聴衆の質問に即座に対応するときにも、このシステムが必要です。

 

 

◆2.記憶のプロセス

 

心理学の標準的なテキストによると、一般に記憶は3つの段階で進むと考えられています。

 

1.記銘

2.保持

3.想起

 

 

この記憶のプロセスに関連するプレゼンの最大の難関として「言語化ラグ」が挙げられます。

 

言語化ラグとは、話し手が自身の考え方やメッセージを聞き手に伝えようとするとき、適切な言葉や表現が出てこず時間の遅れ(ラグ)が生じることを言います。

 

◆言語化ラグ
話し手が自分の意見・考え方・メッセージ等を言葉にするときに生じる時間の遅れ(ラグ)

 

この言語化ラグは、誰もが日常的に経験したことがあるものだと思います。

 

この現象は、一つのまとまった過程のように感じられますが、実際には、さらに細部に以下の3種類の時間の遅れ(ラグ)を含んでいます。

 

 

①意識ラグ

第一のラグは、プレゼンターが次に話そうとしている内容・文脈(コンテクスト)が、話し手の意識の俎上にのる(思い出す)までに生じる、時間の遅れです。

 

②置換ラグ(構成ラグ)

第二のラグは、意識ラグ(第一のラグ)がクリアされた状態で発生します。

 

このラグでは、話すべき内容・文脈自体は意識上にあるものの、それを適切に伝えるための言葉・表現が思い浮かばず、置き換えや文章の構成に時間の遅れが生じます。

 

③発話ラグ

第三のラグは、呼吸~発声、特に発話(構音-調音)がうまくいかないことにより発生する時間の遅れです。

 

 

この3種類の時間の遅れ(ラグ)から、言語化ラグは構成されています。

 

言語化のスキルを高めることは、この言語化ラグをできる限り減らすことと同義である、と考えることができます。

 

 

◆言語化ラグの構造

意識ラグ…話すべき意味・内容・文脈(コンテクスト)を思い出せず、時間が掛かること。

置換ラグ…話すべき内容・文脈自体は頭に思い浮かんでいるが、それを適切に表現する言葉がすぐに出てこないラグ。

発話ラグ…呼吸~発声、特に発話(構音-調音)がうまくいかないことで発生する時間の遅れ

 

想起ラグ…①意識ラグ&②置換ラグを合わせたラグ。

 

 

 

 

言語野 ――神経学的な観点から

 

最後に、言語野という神経学的な観点から、言語化プロセスについて考えてみましょう。

 

◆前提:全体論と機能局在

人間の脳には、全体が協同して働くという全体論的な側面があると同時に、脳の領域(部分)によって働きが異なるという機能局在的な側面があることが知られています。

 

言語野というのは、1861年にブローカによって運動性の部位が発見されて以降、機能局在的な側面が認められている典型的な脳領域です。

 

 

※脳が全体として働いている、例外的なわかりやすいケースもあります。

Elyse G.’s brain is fabulous. It’s also missing a big chunk
A new project explores interesting brains to better understand neural flexibility.

 

 

◆言語処理のモデル

 

脳の言語処理に関する、ウェルニッケ-ゲシュウィンド・モデルという簡略的なモデルがあります。

 

実際には、このモデルは単純過ぎ、また間違いが含まれるため修正が必要であるそうですが、言語野のイメージを膨らませるために役立つかもしれません。

 

このモデルには、次のように6つ程の要素が登場します。

 

―――――――――――――――――――――――――

1.視覚・聴覚

感覚ニューロンが視覚情報、聴覚情報を受容し、ウェルニッケ野に情報を送ります。

 

2.ウェルニッケ野(W)

感覚性言語野。側頭葉の一部。ブロードマンの脳地図における22野。

 

3.ブローカ野(Broca’s area)

運動性言語野。前頭葉の一部。ブロードマンの脳地図において44野。

 

4.弓状束(arcuate fasciculus)

ブローカ野とウェルニッケ野を結ぶ神経線維。

 

5.角回(angular gyrus

ブロードマンの脳地図における39野。

 

6.運動野(M)

発話における構音・調音器官を動かすことに関わる。

 

―――――――――――――――――――――――――

 

こちらの図は、そのモデルを参考に言語野の要素を組み合わせたイメージ図です。

 

※参考文献:『ベアー コノーズ パラディーソ 神経科学 脳の探求』

 

 

 

・・・

 

言語野から得られる手掛かり

 

言語野についてのこうした考え方から、何かプレゼンの上達に役立つヒントを得られるでしょうか。

 

私としては、言語野をイメージする際に、脳内に存在するネットワークとして、

 

思考・理解する回路…考え事、読書、文章の執筆などする際に使われる回路。

発話する回路   …会話、プレゼンなど発話・発声に関わる際に使われる回路。

 

この二つの回路を区別して考えることをおすすめしたいと思います。

 

※ここでは、プレゼンの上達という実践的な目標のために、正確さは犠牲にして単純化して捉えています。

 

なぜ、この思考・理解する回路発話する回路を区別する必要があるかというと、

 

例えば、普段熱心に勉強や読書をする習慣を持っている方でも、

 

「プレゼンの時に上手に発話したり、自分の意見や考えをうまく言語化できない」

 

という悩みを経験するケースは非常に多いからです。

 

ほかの人々よりも学ぶことに高い価値を置いていて、本来は十分な知識や語彙を持っているはずなのに、うまく話せない、ということはよく起こるのですね。

 

言語野について、①と②の回路を区別せずにイメージした場合、こうした問題がなぜ生じるのか、分からなくなってしまいます。

 

そのため、この問題を適切に解釈するためには、先ほどの区分を用いて、以下のように考える必要があります。

 

————————————-

1.①思考・理解する回路と②発話する回路はある程度分かれている

 

2.読書や研究を通じて、語彙を豊富に持っているにもかかわらず、上手に話せない場合、②発話する回路が十分に機能しておらず、眠ったままになっている

 

3.②発話する回路を鍛え、①思考・理解する回路と接続するために、「発話を前提とした語彙のインプット&アウトプットの練習」を繰り返し行うことが重要

————————————-

 

こうした考え方を採用することで、プレゼンのスキルを向上するための課題が明確になると思います。

 

・・・

 

最後に

 

言語化のプロセスは、プレゼンにおいて中核的な役割を果たすため、

 

そのメカニズムについて詳細にイメージできればできる程、話す力を高めることに繋がると考えられます。

 

今後もこのテーマについては継続的に調べ、何か分かったことがあれば追記したいと思います。

 

少しでもご参考になれば嬉しいです。

 

 

 

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